大阪府堺市堺区東雲西町1-1-11 JR堺市駅NKビル2F TEL/FAX 072-238-5514
院長コラム
皮膚のバリア障害と経皮感作について  花粉と皮膚炎
アレルギーマーチ  正しい外用剤の塗り方  アトピーって
遮光(日焼け止め)の功罪  ダニ対策  ステロイド外用剤について
アトピー性皮膚炎の診断について  鶏卵アレルギー発症予防に関する提言について
プロアクティブ療法について


皮膚のバリア障害と経皮感作について

 以前からカサカサ肌のことはアトピックスキンといわれてきました。今まではアレルギーがあって、皮膚が荒れる(炎症がおこる)と思われがちでしたが、最近では先にカサカサ肌があって、そのバリア機能の弱くなった肌を介して、アレルギーがおこることがわかってきております。先にアレルギーがあるから皮膚が荒れるのではなく、先に皮膚が荒れているからアレルギーになるということです。皮膚からアレルギーの原因となるものが入ってアレルギーになることを経皮感作といいます。今や、卵も牛乳も小麦も経皮感作が主といわれています。
 だから乳児期の特に生後1〜2か月での肌荒れをきれいに治しておくことが重要なのです。ここで漫然と保湿剤だけ使って、カサカサで紅いままにしておくと、卵などのアレルギーになっていくのです。スキンケアと外用剤により正常の皮膚を保つことこそがアレルギーを予防するのです。
 テレビで卵アレルギーの患者さんが、ゆで卵の湯気でも顔が紅くなるのをみました。私たちが想像するよりも空気中にはいろんなものが飛んでいるのです。また牛乳は、授乳の際に荒れた口の周りから皮膚を介して入るようです。パン屋さんやケーキ屋さんが小麦を触って、小麦による喘息になりやすいことは以前より有名です。  


花粉と皮膚炎

 花粉症といえば鼻炎と思われがちですが、皮膚科の診療をやっていますと、花粉の飛散時期に顔が紅くなって来られる方は非常に多く、花粉がなんらかの作用をしているのだなあと推測はしておりました。しかし、血液検査でアレルギーの数値が上がらない方が多く、確証はもてませんでした。
 横浜の開業医の浅井俊弥先生がこれを証明してくれました。本当に素晴らしいことだと思います。スギ花粉が飛散する時期、量と、顔面特にまぶたの湿疹で来られる患者さんの数が一致すること(スギは一年を通してちょこちょこ飛んでいます)、さらには、まぶたに湿疹がある患者さんのまぶたに実際に花粉がついていることを証明されました。このような方は30代以降の圧倒的に女性に多く、部分アトピー性皮膚炎と名付けられております。
 最近、花粉による喘息は、新聞などでもよく取り上げられるようになりました。花粉は鼻だけでなく、皮膚、気管支と広く影響を及ぼしているのです。


アレルギーマーチ

予防するための除去食、スキンケア、治療の重要性
アレルギーマーチというのは、まるで、行進するように次々とアレルギー症状が出現していくことで、有名なものには乳児アトピー性皮膚炎から続く喘息発症があります。乳児期におけるアトピー性皮膚炎が食物アレルギーによる場合、これを除去食によりコントロールすることで、7歳時の喘息発症が50%から10%に減少するというデータがあります。実際、乳児期の食物アレルギーから始まり4歳ごろから喘息を発症し、そして成人アトピーへと続く患者さんは多いのです。きっと大勢の医者がそうであるように、私もなんとか、成人へと続くアレルギーの連鎖を断ち切りたいと考えています。そして、そのために一番重要なことは、乳児期のアトピー性皮膚炎の良好なコントロールにあると考えています。
乳児アトピー性皮膚炎で重要なことは漫然と乳児湿疹としてしまうことです。顔面、頭部以外に湿疹があれば、乳児湿疹としてワセリンだけを外用して様子を見るのではなく、早期の食物アレルギーの有無を検査することが重要です。
乳児湿疹の経過は以下のようになります。

   1/3 乳児期で治る
   1/3 アトピー性皮膚炎にそのまま移行
   1/3 一旦治り、再びアトピー性皮膚炎として発症

おおよそ2/3 はアトピー性皮膚炎となっていくので常にアレルギーなどの関与は考えておかなければいけません。
同時に湿疹をきれいに治していくことが大切です。当院ではスキンケアの指導をしながら、乳児に適した弱いステロイドと保湿剤を使用しています。湿疹からさらに、ダニ、ホコリのアレルギーの原因がはいりやすくなるばかりでなく、最近はこの湿疹から卵なども入って、アレルギーを獲得するといわれています。えーっと思うかもしれませんが、料理する卵などが空気中に飛散して皮膚についてアレルギーを獲得していくというのが最近は主流なのです。だから、除去食は食べないことだけでなく、まわりにそのものがないことが大事なのです。大変ですが、他の家族もなるべく食べないほうがいいのです。(ピーナツアレルギーは本人でなく他の家族がピーナツを食べると多くなるというデータが海外で、でています。)そして、外用剤の正しい塗り方の指導を行っています。


正しい外用剤の塗り方

1)
いつ塗るのか?
基本的に朝と入浴後すぐ
2)
どれだけ塗るのか?
分量についてはルールがあります。
大人も子供も本人の指一節分の薬が両手の面積をぬる分量となります。
(大人でおおよそ0.5g  5gチューブで10回分)
正しい外用剤の塗り方
強くすりこまない。膜をつくるように塗りましょう。
少ない量ですりこむようにぬるのは、効果が少ない場合が多いです。
以上のようにぬってはじめて効果があるくらいの薬を処方するようにしております。
弱い薬を希望されるならなおさら、ベターと塗っていただくことが大切です。
 薬をぬるのは、飲むよりずっと大変なことです。でもよくなれば、薬は弱くできますし、皮膚がよくなればアレルギーの勢いも落ち着いてくることが多いのです。そして、塗る範囲も回数も少なくなっていくのです。


アトピーって

「アトピー性皮膚炎です」というと、そうですか、と納得される方、びっくりされて非常に落胆される方がいます。
でも本当はアトピーってその語源は 普通でない という意味なのです。ですから「あなたは普通でない湿疹です」といわれ納得されるのも実はおかしなことです。
アトピーいわゆるアトピー性皮膚炎の方は皆さんアレルギーがあったり関与しているわけではありません。おおよそ20%の患者さんは検査してもアレルギーの数値は高くなく、実際、関与も考えにくいです。
アトピー性=アレルギー性ではなく、いったいなんなのか、実のところまだわかっていません。最近では皮膚のバリア機能が低下する遺伝子異常も見つかっていますが、それだけでは説明はつきません。将来、もっといろいろなことが解明されてアトピー性皮膚炎という言葉はなくなるかもしれません。
だから、アトピーかどうかが重要ではなくその個々人で何が悪さをしているか患者さんと一緒に常に考えないといけません。それが乳児期では食べ物のアレルギー、学童から成人ではダニ、ホコリ、花粉などのことは多いです。同じようなアレルギーでも夏悪くなる人もいればよくなる人もいます。すべての人に汗が悪いわけではありません。さらに、ストレスといってしまえば簡単ですが、まったく理由なく良くなったり悪くなったりする場合もあります。
アトピーと言われると落胆される方は、もう治らないと思われているからでしょう。治ってしまうかといわれると断言はできませんが、うまくコントロールできることのほうが多いのです。私はアトピーは命にかかわるものではありませんが、人生にかかわる重要な疾患と思っています。間違った思い込みや治療をしなければアトピーでも仕事もスポーツも何もあきらめる必要はないのです。


遮光(日焼け止め)の功罪

日焼け止めについてまちがった考え方が常識となっている気がします。
何のために早くから日焼け止め使用するのでしょうか?
学生時代、クラブ活動で真黒に日焼けしていた友人と久しぶりに会いましたが、彼女はけっしてシミだらけではありません。いったい何歳くらいから日焼け止めを使用したら将来シミになりにくいのでしょうか?これにはかなりの個人差があります。もともと色白で日焼けすると真っ赤になるけどすぐ戻る人、もともと色黒で日焼けしても赤くならない人、私たち黄色人種はいろいろなスキンタイプがあり一言ではいえませんが、だいたい22歳くらいではと思われています。だから特に小さなお子さんに日焼け止めを塗ったり、日にあてないようにすることは将来シミができないためにするならあまりにも早すぎることです。最近では日光浴が減少し、骨が弱っていることが問題になっているのです!特に乳児では母乳栄養のみでの栄養不足も加わって、クル病が増えています。驚くことには妊婦さんが日光にあたらなかったことで、生まれている子供の骨が弱くなっている報告もあるのです。
日焼け止め さらにアトピー性皮膚炎、乾癬などの主な皮膚病に紫外線治療をすることから、おおかたの皮膚病では日光にあたるほうがいいのです。また、最近紫外線治療をすると骨量が増えたと報告されました。日光にあたると骨も強くなります。裏返せば、遮光ばかりしていれば骨は弱くなります。
また、皮膚がんは本当に増えているのでしょうか?私は以前より紫外線量の少ないイギリスに住んでいた白人がオーストラリアに移住して、皮膚がんが増えたといっているのには疑問を持っています。沖縄の人は色黒が多く、東北の人は白いですよね。その土地にあった皮膚に私たち人間は対応しているのです。子供などは日本より紫外線の強いところに行くときのみ日焼け止めをしっかり塗ったらいいのではないでしょうか。また20歳なかばを過ぎたらシミができてほしくないところだけ塗ったらいいでしょう。


ダニ対策

 アレルギーの原因になるダニというのはほとんどハウスダストのことで、その細かなダニはホコリとして存在しています。また死骸もアレルギーの原因となるため、殺虫剤を使用しても除去しなければいけません。基本は除去と増やさないということです。
1) 床
ピータイル < 板 < たたみ < じゅうたん の順で増えていきます。ピータイルとは病院などのつるつるの床で家屋には適していないため、いちばんいいのはフローリングなどの板の床になります。たたみの上にじゅうたん、そこにこたつなどは最悪の状態といえます。
2) 寝具
人間は人生の三分の一は布団で過ごすでしょう。 しかし、寝具はダニの格好の住処となります。
  • ふとんをできるだけ干す。干したあと掃除機をかける。(できれば定期的の丸洗いできるもの) 乾燥機をかけるとなおよい(60度以上で死滅します)。
  • 毛布にはカバーをかける。布団と同じように定期的に洗う。
  • まくらも洗えるものがよい。よくタオルを巻いている人がいますが、タオルもダニが多いので使わない。
  • タオルケットもよく洗う。あまりモコモコしていないものを選ぶ。
  • すべての寝具にカバーをかける。カバーはツルっとした素材のものを選び、できるだけ毎日かえる。
  • ダニ防止用の寝具(帝人ミクロガードなど)を使う。カバーだけでも効果大。
3) 冷暖房
 エアコン、ファンヒーターはフィルターなどを十分掃除しましょう。加湿器は皮膚の乾燥には効果ありますが、あまりじめじめさせるとダニが増殖してしまいます。暖房は理想的には風がでてくるファンヒーターやエアコンよりオイルヒーターがいいです。
4) ペット
 とくにそのものにアレルギーがなくても毛の多い犬や猫、ハムスターなどダニを増やす原因となりますので避けてください。特に小児は動物アレルギーになりやすく、どんどん悪化することが多いです。最近心身医学的な立場からは癒されるならペットをかったほうがいいという意見もありますが、これはストレスの多い大人の場合、そういう例もあるということだと考えています。
5) その他
 ぬいぐるみはよくありません。整理整頓して、あまりほこりがたまるようなスペースをつくらないように。カーテンはホコリがつきやすいので生地に注意し、洗うようにしましょう。


ステロイド外用剤について

 マスコミなどの影響からステロイド外用剤を極端に嫌がられる人がいまだにいるのは悲しいことです。
 私も平成2年から4年にかけて淀川キリスト教病院、神戸労災病院勤務時、多くのアトピー性皮膚炎の方に脱ステロイド療法をしていました。ほとんど入院の上厳重な管理のもとにおこない、30人近くの方が入院されていることもありました。しかし、延べ何百人という患者様のうち、すっかり湿疹が治ってしまった方はほとんどいませんでした。ステロイド外用を中止して湿疹が悪化していてもなんとかがんばっている人を多くみました、急に外用を中止したことにより悪化し、それまでの社会生活ができなくなった方もいました。
 ステロイド外用剤にはさまざまな強さがあります。不必要に強いものを外用するのはよくありません。症状とでている場所、年齢などにより外用剤を調節していくことこそが皮膚科専門医の役目と思っております。多くの場合、ステロイドを外用したから黒くなるのではなく、湿疹が長く続くために炎症後に色素沈着がおこるのです。ですからうまく外用して早く湿疹をなおしたほうが、黒くなりにくいのです。
アトピー アトピー性皮膚炎など長期の外用が必要な患者様には、常に副作用を注意しながら外用剤の処方をさせていただいております。さらにはうまく保湿をすることで、ステロイドはかなり弱いものでも効果がでてきます。ステロイドを忌嫌するのではなく、うまく使って快適に日常を過ごしていただきたいと願っています。

 ただ、ステロイドの使用にあったては正しい診断が必須です。

 写真の方は、乳児期よりずっとアトピーと診断されていた患者さんです。実はマラセチアという真菌症でカビをやっつける薬で治癒しました。それまではステロイド外用による悪化を繰り返していました。


アトピー性皮膚炎の診断について

 アトピーという言葉は典型的でないという意味です。
 診断基準には海外のもの日本のものがあります。

アトピー(日本の現在の診断基準)
アトピー性皮膚炎は、増悪・寛解を繰り返す、そう痒のある湿疹を主病変とする疾患であり、患者の多くはアトピー素因を持つ。

(海外の基準)
皮膚にかゆみがあり、以下の4つのうち3つ以上を満たす
1)現在、関節の曲がるところや頬、四肢の外側(伸びたところ)のどこかに湿疹がある
2)1)のどこかの場所に湿疹が出たことがある
3)皮膚が乾燥したことがある
4)一等親以内にアレルギー疾患になったことがある方がいる

 専門的な言い回しでわかりにくいかもしれませんが、どうでしょうか?
(いずれにせよ、血液検査の数値は診断に関わりません。)
 ただの乾燥と思っていてもかゆくなっていれば、多くはアトピー性皮膚炎ではないでしょうか。


鶏卵アレルギー発症予防に関する提言について

 2016年に日本小児アレルギー学会が発表したものです。
鶏卵アレルギー 少しの湿疹でも、必要なステロイド軟膏でつるつるにする(寛解状態の維持)。その上で、生後6ヶ月より鶏卵を規程の加熱法で規程の量食べさせることで、鶏卵アレルギーの発症を予防するというものです。

 これに基づき乳児の湿疹を治療することで、ここ2年、すでに鶏卵アレルギーがある児は別として、鶏卵アレルギーを発症する児は劇的に減少いたしました。

1)まずは、皮膚のがさがさをこんなものと保湿剤のみで放置しないでください。
→ 皮膚を通してアレルギになる(経皮感作といいます)ことをおさえることができます。

2)6ヶ月から鶏卵を食べる
→ 経口免疫寛容 を得ることができます。
 (現在スギ花粉症でスギ花粉の経口剤があるのと同じです。)

 乳児期のお子さんがかさかさしているなと思ったらとにかく早めの受診をおすすめします!


プロアクティブ療法について

 アトピー性皮膚炎、こんなものとあきらめていませんか?
 以前からHPにも書いているように、皮膚科医30年の間、アトピー性皮膚炎に人生をふりまわされている方にたくさん出会ってきました。会社を辞めた方、スポーツをあきらめた方、集中力が下がり受験どころでなくなった方。ひどくて入院している間にご主人がいなくなった方。ご本人が家にひきこもってしまった方。
 ここ数年、アトピー性皮膚炎に対するプロアクティブ療法というものが脚光をあび、実際これにより多くの方がアトピーのことに悩まなくなっています。
プロアクティブ療法 これは外用剤の使い方をかえるだけなのです。かゆいところにちょっと塗るのではなく、つるつる(寛解状態)をキープするために、ステロイド軟膏を必要な強さ、量を塗り続け、徐々に寛解状態をキープしたまま減らしていくのです。先が長いと思うかもしれませんが、6ヶ月ほどでもがんばっていただければアトピーのコントロールが劇的に改善します。
 私が研修医のころ、救急はいつも喘息発作の方であふれていました。今、喘息発作なんてあるのでしょうか?喘息でもオリンピックで活躍できる時代です。なぜ、そうなったか?喘息に新薬ができたわけではなく、薬の使い方がかわったからです。喘息発作がおこってから薬を使うのではなく、発作がおこらないように薬を使っているのです。

 これこそがアトピー性皮膚炎がおこらないようにきちんと薬を塗るということと同じだと考えられます。




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